遺留分に関する民法特例~除外合意と固定合意

「中小経営承継円滑化法」の一環としてできた民法特例制度です。

事業承継において必須である自社株の移転ですが、

生前に贈与したはいいけれど結局は遺留分の問題が残る・・・のでは相続が発生してもめる原因となるので

念には念を入れて確実な事業承継、相続対策を行いましょう。


 1.遺留分とは

 2.「除外合意」と「固定合意」

 3.利用上の注意点

 

1.遺留分とは

 

相続人の生活の安定と公平のために配偶者やその子、もしくは親に最低限保証された制度で、

ざっくりいうと本来の相続分の2分の1が保障されています。(相続人が親だけの場合は3分の1)

 

遺留分を侵害された相続人(もらう分が他の人よりかなり少ない)は、

遺留分の額以上の財産を取得した相続人に対して財産を戻すように請求することができます。

これが「遺留分減殺請求」です。

遺留分に関しては必ず支払わなければならず、払いたくないと裁判しても無駄です。

 

生前贈与された自社株は、相続開始以前のものはすべて!

「特別受益」として相続分に算入されて遺産分割協議の対象となり、

(亡くなる3年前までの分を算入するのは相続税申告の時)

相続開始時の評価で計算されることになるため

後継者が、自社株を贈与された後に自分の代になってから、

上げた株価分だけ遺留分の額も大きくなるわけです。

自分が努力して自社株の価値を上げた分だけ請求額も大きくなる、というジレンマに陥るわけです。

そこで自社株の遺留分に関する民法特例ができました。

 

 

2.「除外合意」と「固定合意」

 

「除外合意」とは

“遺留分の算定基礎から、自社株の評価額は除く”ことに相続人全員が合意するもの

 

「固定合意」とは

“遺留分算定に入れる自社株の評価額を、贈与された時のもののままで計算する”ことに

相続人全員が合意するものです。(実際には意味がないのでこちらは実務向きではありません。)

 

手続きとしては、

先代経営者の推定相続人全員が所定の申請書に合意の署名捺印をします。

必要書類を添付し

1か月以内に経済産業大臣に提出、確認をします。

さらに1か月以内に家庭裁判所の許可を受けることで有効となります。

 

 

3.利用上の注意点

 

手続きはそれほど大変でないように見えますが、

自分の相続分が減ることを法律的に認めることになりますから、それなりの覚悟が必要です。

 

先代経営者(ここではお父さんとします)が元気で

指示できるうちに行わなければなりません。

お父さんが子どもたちに

 

「お前ら、会社の後のことはこの長男にすべて任せるからそのところの相続分はないことにしろ」と言うわけです。

 

相当の威厳で、はもちろん

それに見合った他の子どもたちそれぞれへの生前贈与も必要になるかもしれません。

 

また、同意には遺産分割協議書さながら相続人全員の署名捺印が必要ですから

お父さんが、他に子どもがいるのを隠していたり、これから誰かとの子を認知したり、

これから新しく子どもを作ったり!して相続人が変わると無効になってしまいます。

(元気すぎますね)

 

「遺留分放棄」の特例ですから内容がよく似ていますが

通常の遺留分放棄だと、書類を作って裁判所に提出、本人確認や意思確認がきたり等々

自分の相続分を放棄するのに、わずらわしいことをぞれぞれが自分でしなければなりません。

 

しかし、この制度の最大のポイントは、

その書類に全員の署名捺印さえもらえれば後継者一人で手続きできる点です。

大きな違いです。

ただそのためには、しっかりした家族会議や対価が必要でしょうから計画をたてて慎重に行いましょう。

 

 →→中小企業経営者が必ず考えなければならない相続の話

 →→遺言書を書いたほうがいい人は?

 

 

 →→【目次:事業承継特集】